4歳8ヶ月。
バイリンガル育児を初めてから、3年。
バイリンガル育児で大切にしてきたことは、「多様性を受け入れる柔軟性」。
娘にも、新しい環境や人に対して壁を作らないようになって欲しいと思い、接してきました(過去の記事『多様性と異文化理解』)。
そして その土台にあったのは、「英語」という言語、あるいは「英語ネイティヴ」を美化したり、言語によって優劣をつけたりしないこと。
英語ネイティブへの憧れ
たとえば、「英語ネイティヴが優れている」とか「英語を訛りなく話せる人は すごい」というようなメッセージを、娘が受け取らないように気をつけていました。
2歳くらいのときだったでしょうか。誰かの英語を聞いて、"◯◯'s English is silly.(◯◯の英語は変だね)"と娘が言いました。
もちろん、この時の娘に悪気はありません。いつも聞いている英語の発音と違うから、純粋に「違う」と思っただけ。この時 わたしは「皆んな、アクセントが違うし、違っていて当たり前。英語を話さない人だってたくさんいるよ」と娘に話しました。
あらゆる物事に対するイメージは、メディアや社会を通して構築されるものです。言語や人種に対するイメージもそう。
小さい子であれば、それは一番 身近な家庭を通して構築される。つまり、わたしの英語に対する考え方が、そのまま娘の考え方に反映されてしまうということ。
想像上のコミュニティ
わたしたちは、実社会で様々なコミュニティに属しています。娘の場合は、プリスクール、おうち英語仲間とのプレイデート、新体操教室といったコミュニティに属しています。
社会言語学者のNorton氏は、こうした実社会のコミュニティだけではなく、「想像上のコミュニティ(imagined communities)」も存在する、と言います。
この「想像上のコミュニティ(imagined communities)」は、今 実際に属しているコミュニティよりも影響力があるのだそうです。そして 動的で 移り変わるものである、と(Norton 2010)。
分かりやすく言うと、娘はよく「難しい英語を学びたい」と言います。この場合、今の娘の「なりたい自分(imagined identities)」は、難しい英語を話している「未来の自分」。
そして その「難しい英語を話している自分」が、将来 ニューヨークに住んでいることを想像するとします。
そこで 学校に行き、新しく友達ができ、様々なコミュニティに所属する自分を想像する。これが想像上のコミュニティ(imagined communities)です。
難しい英語を話し、ニューヨークに住んでいる自分を想像する。それが今の行動の原動力となり、「もっと英語の本を読もう」とか「英語を話そう」とか、
自分の時間と労力を そこに投資するか否か、ということに繋がるのです。
娘の今現在の「自分の未来像(imagined identities)」は、これからSmileが何を経験し、何を感じるかで、どんどん変わっていくと思います。だからこそ、感受性の強い この幼少期に、娘が 英語ネイティヴに憧れるようなメッセージを受け取り、
そこに近づくためだけに 時間と労力を投資してほしくない。
ネイティヴのように話せるようになって欲しいとも思いません。「ネイティヴらしさ」というのは、発音や流暢さなど表面的な部分で計っている場合が多いからです。
それよりも知性や人間性、社会性など、もっと本質的な部分を伸ばしてほしいな、と。なにより、英語を「自分の言葉のひとつ(the ownership of English)」と感じてほしいし、ネイティブ/ 非ネイティブ関係なく、自信を持って自分のことを「英語話者」と思ってほしい。
そして しっかりとした軸があるアイデンティティが 育ってくれるといいなと感じています。
行きつけのコーヒーショップにて、初めて会ったアメリカ人のスタイリストと。Smileとの出会いをSNSに書いてくれました。
こんな風に、壁がなく世界を広げていけるSmileが頼もしくもあり、うらやましくもあります。
"...as English language learners reimagine their futures in a changing world, the question "Who owns English?" will become ever more strident and contested."
移り変わる世界において、英語学習者が自分の未来を新たに想像するとき、「英語は誰のものか?」という問いは、ますます大きな問題となり、論争の的となるだろう。
(Pavlenko&Norton (2007))
参考文献
・Norton, B. (2010). Identity, literacy, and English-language teaching. TESL Canada Journal, 28, 1, 1-13. ・Pavlenko, A., & Norton, B. (2007). Imagined communities, identity, and English language learning.