心地のよい言葉とは

4歳0ヶ月。

ここ最近、バイリンガル育児をやっている友達と話す機会が何回かあり、娘との関係を振り返っています。


一人のお母さんは、自身が帰国子女で、4歳の子どもには0歳から英語で語り掛けてきたとのこと。英語を話す子ども達とのプレイデートも頻繁にしていて、その子にとって英語は日常にあるものだったようです。

様子が変わったのは、その子が日本の幼稚園に通いだしてから。そのお母さんが英語で語り掛けると泣いて嫌がる日もあるそうです。嫌がるのに、無理に英語の取組みを続けていいものか、というのが そのお母さんの悩み。

情意フィルターとアイデンティティ

第二言語習得理論に、「情意フィルター」という考え方があります。Krashenという研究者が80年代に唱えた理論で、

簡単に言うと、学習者には見えないフィルターがあり、不安、モチベーションや自信の低下などネガティブな感情になると、そのフィルターが上がり、言語学習を妨げるというという考え方。


ただ、この理論には、学習者の性格や、さまざまな社会環境の中で移り変わるアイデンティティの要素は入っていません(Norton, 1995)。言語学習と、モチベーションと投資の関係について以前 書きましたが、


他言語や異文化に対して、その子の情意フィルターが上がるか下がるかは、その子の性格や、家の外でのアイデンティティも深く関わっていると感じます。

たとえば、幼稚園のお友達と遊んでいるときに(家の外でのアイデンティティ)、うまく自分の意見を日本語で伝えられず、仲間に入れないことは、その子にとっては大事件。このとき、その子にとって他言語に対する情意フィルターは高く、モチベーション低くなっている可能性があります。


その子にとって心地のよい言葉か

ここで、無視できない要素が、その他言語(ここでは英語)がその子にとって、心地のよい言葉かどうか。ある特定の人と、あるいは 特定の場所では心地よい言葉であっても、他の人(ここではお母さん)とは、恥ずかしいとか複雑な感情で心地わるく感じたりするかもしれない。

その子を取り巻く環境、性格、親との関係、学校(単一文化か多文化かどうか)などによっても、その言語に対する「心地よさ」は大きく変わってくると思います。

しかも、その子のアイデンティティを含む こういった要素は、動的で常に変わるもので、昨日そうであったからって、今日も同じということではない。

子供にとって いい塩梅を見つける

娘を見ていると、「人、場所、時間」によって、心地のよい言葉が変わるようです。

私とは、英語と日本語。でも怒っているときは英語、機嫌がいいときは日本語。逆のときも。

夫とは日本語。プリスクールのお友達とは英語だけど、おうちごっこをするときは日本語。日本の公立小学校に入り、日本語の環境に入ったら、またこれも変わっていくだろうし、今でも毎日 少しずつ違います。

毎日 娘の様子を見ながら、娘にとって 英語(日本語)が心地悪い言葉にならない程度に いい塩梅を見つけて取組みをしている、という感じでしょうか。

今現在であれば、娘が日本語環境に入っても お友達とのコミュニケーションで不自由を感じないように手伝う。それに伴い、家での英語環境が 「心地悪く」ならないように、英語の取り組みも 毎日の娘の様子を見ながら 続ける。

そして、できるならば、今後 どちらかの言語に対して情意フィルターが高くなることがあっても、娘自身が それを乗り越えるべく、自分の時間と労力を「投資」できるように、ときに手伝い見守りたいです。

…even when learners have a high affective filter, it is their investment in the target language that will lead them to speak.

目標言語に対して情意フィルターが高くても、学習者がその言語に投資することで発話につながる。
(Norton (1995) )


参考文献

Norton Peirce,B. (1995) Social identity, investment, and language learning. TESOL Quarterly, 29 (1), 17.