モチベーションと投資


先日あったプレイデイトは、会ってからお別れの時間まで全て英語。バイリンガル育児されている方たちからのお誘いがあり、参加させてもらいましたが、

長い時間、英語コンプレックスと格闘してきたわたしにとっては、英語で自分を表現しなくてはいけない場に出向くのは、今でもかなりの「投資」です。

そうやって後ろ向きな自分を奮い立たせて、自分自身に投資したことで新しい出会いがあり、実り多き、そして刺激のある時間を過ごすことができました。

義務教育を終えて、自分の意志で英語を勉強するようになってからは、自分を奮い立たせた先に得られる何かを求めて、英語に投資してきたように思います。

そしてわたしがそうしてきたように、娘も5年後、10年後、自分の時間と労力を「投資」してまで何かを続けたいと思ってくれるか、ということを考えてみました。


モチベーションと投資


社会言語学者であるBonny Norton Peirce氏によれば、第二言語習得を語る上では、モチベーション(motivation)投資(investment)は、質の違うものとして捉えなければならないとしています。

モチベーションと違い、「投資」は学習者の「移り変わるアイデンティティ」と切り離せない関係にあり、学習者が第二言語に投資するか否かは、「なりたい自分」がどう変わるかで変わって来るということです。

つまり、モチベーションが高く学ぶ意欲が高いからといって、その学習者が実践の場で、自分の時間や労力を「投資」してまで見返りを得ようとするとは限らない。


反対に、そういった実践の場で、進んで自分に投資できる学習者は、モチベーションが高い場合が多いというのです。

...if learners invest in a second language, they do so with the understanding that they will acquire a wider range of symbolic and material resource, which will in turn increase the value of their cultural capital. 学習者が第二言語に投資するのだとすれば、より広範囲の象徴資源(教育、友人関係など)および物的資源(資本資源、不動産、お金など)を手に入れられると認識しているからである。そしてそれが回りまわって、自分の文化的資本(学歴などの個人的資産)を増やすと考えているからである。 (Norton (1995) )

「好きこそ物の上手なれ」とは言いますが、スポーツであっても言語であっても、何かを続けるためには「続けるための動機」があるのは大切だと感じます。

娘にとって、英語は今のところ自然にあるもので、好きの部類に入りますが、今後、家の外のコミュニティに属してしまえば、あとは娘の意思に任せざるを得ない部分が出てきます。

社会との繋がりの中で、娘が「こうなりたい」という理想を見いだし、その中に英語があって、かつ自分の時間と労力を投資したいと思ってくれるか。

情意フィルターと投資

もう一つ、Norton Peirce氏の視点で興味深いのが、情意フィルター(affective filter:心理的な障壁)が高く、目標言語に対して抵抗があっても、「こうなりたい」という自分に投資することで、情意フィルターという障壁を乗り越えられるという点です。

...even when learners have a high affective filter, it is their investment in the target language that will lead them to speak. 目標言語に対して情意フィルターが高くても、学習者がその言語に投資することで発話につながる。 (Norton (1995) )

例えば、英語環境で、英語しか話せない子どもとオモチャの取り合いになったとします。そこで「おもちゃを返して」という英語が分からなくて、泣いたり、あるいは口をつぐんでしまうのか、

それとも、「おもちゃを取り返した未来の自分」に投資して、自分の知っている単語を駆使してでも「返して」と自己表現するのか。

自己表現できなかった子ども、あるいは行動する前に出来ないと思ってしまう子どもは、どんどんフィルターが厚くなってしまいます。

娘が自主保育のプリスクールに通い出して間もないころ(2歳前後)、お友達と快適に過ごせるよう、家で下のような表現を一緒に練習しました。この頃は、バイリンガル育児を始めたばかりだったので、「スクールが嫌=英語が嫌」となって欲しくない一心でした。

  1. 物を貸したり、借りたりするときに何て言うか
  2. 嫌なことをされたときに相手を傷つけずに何て言うか
  3. 遊びに誘うとき、断るときに何て言うか
  4. 失礼な表現をしていないかどうか
  5. その他の自己表現の仕方

基本的な表現ですが、日頃から会話に混ぜたりするだけで、わたしが居ない環境でも、自分をちゃんと表現できているのではないかと思います。

今後、親として心掛けたいことは、家の中に留まらず、家の外で娘が英語で自分を表現できる場所を維持し、見つけていくということです。

また、数年先ですが、娘が地元の小学校に入った時に、英語に対して「お友達と違う言葉は話したくない」とか、「英語に投資するのは無駄」と感じてしまわないよう、お友達との横の繋がりを保ちつつ、試行錯誤しながら方法を模索していきたいと思います。

参考文献

Norton Peirce, B. (1995) Social identity, investment, and language learning. TESOL Quarterly, 29 (1), 26.